assistant

宝物v

今日は「旅する男達」のグリコーゲンさんよりお話をいただきましたvv
グリコさんの80000ヒットニアピンリクをお願いしたお話で、昨日私誕生日だったものですから誕生日プレゼントにと特別にこのお話をくださったのですvグリコさんどうもありがとうございます!その上掲載許可もありがとうございます!
リクエストは「アリの足」を絡めたお話、という曖昧なものだったのですが、それに「ディンゴ」をも絡めて書いてくださいましたvみなさまもどうぞこの原作を彷彿とさせるお話をご堪能くださいv

アリの道





俺はまっすぐな道を見つめていた。

はるかかなた、地平線まで続く道。

その行方は蜃気楼のようにゆらゆら揺れて、定かに見ることができない。



ここはオーストラリア。

以前京都で知りあったレヤード氏に請われて来たはいいが、すでに一家は全滅、それどころか小型機が突っ込んできたおかげで家は大破。

俺はほとんどガソリンもない車で逃げ出す羽目になった。

せめて日記でも持ち出せればあの症状の原因を知る手がかりとなったのだが。



いや、現実から目をそむけるな。

今考えるべきはこれから先の見通しじゃないのか。

この1本道、300キロ走っている間、ほとんどすれ違う車がなかった。

100キロは車で戻れたが後200キロ、どうやって帰ればいいというのか。



歩くしかないことはわかっていた。

人は1日にどれ位歩けるだろう。

これだけは手放せない商売道具の重いかばんを手に、足を踏み出す。



もう一度自家用機でも通らないかな・・・車でもいい。



時々新聞にウォーキング大会の記事が載っている。

3デーマーチとか、2デーマーチとか。

それによると1日のコースの最長は50キロ、次に30キロが多い。

長時間歩くためには時速4キロとして、1日8時間歩くと32キロ、12時間歩けば48キロ。

時速5キロなら、6時間で30キロ、10時間で50キロ。

時速6キロなら・・・このかばんの重さでそれは無理か。

でも歩けば歩くほど町に近づき、人に会える可能性は高まる。



暑い。

なんて暑さだ。

日差しをさえぎる木の1本すらない1本道。

ここは耕作地だから。

作物以外、育つ必要がないとばかりに何もない。



けれどありがたいことに、ここは農耕地。

目が回るほど乾きに悩まされるようになった頃、用水路を見つける。

犬のように直接口をつけて飲み、のどを潤す。

一度気がつくと、用水路はたやすく見つかるようになった。

道より少しそれた場所を、ほとんど平行に走っていたのだ。

一つ、懸念が去る。



畑の作物は、見渡す限りキャベツ。

今の時期、ここらへんは広大なキャベツ畑になるらしい。

玉は結構大きくなっていると思うが、こちらの作物は日本のものに比べて大振りなものが多いから、まだ収穫時期ではないのかもしれない。

今こそがこの畑の収穫の日ならいいのに、きっと農地の主はもっと遠くに何日か早く植えつけた野菜を収穫に行っているのだろう。



ぷうんとキャベツ独特の青臭いにおいに満ちた地。

逃れるすべなく、一人遠いゴールを目指す俺。

暑さと疲れにかすむ目。

荷物が重い。

左に持ったかばんを右に持ち替え、でもしばらくするとまた左に戻す。

いつの間にか俺の右手は恐ろしいほど繊細になった。

瞬発力はある。

結構力も強い。

でも、荷物を持つのは左手の役目。

俺の右手はそれより大事な役目がある。

そう体が訴えるのか、重いものを長時間持ち続けられない。



あごまでたれる汗を、右手でぬぐう。

水を飲めたのはよかったが、それまで出すことすらできなかった汗が伝う。

休みたい。

その思いを断ち切るようにもう1歩。



惰性で足を動かしながら、こんなことが以前にもあったと思い出す。

あれはまだ俺がリハビリを続けていた頃。

広島から大阪まで歩いたことがあった。

やっと歩けるようになった頃だ。

あの時歩いた距離は何キロだったか。

今回の200キロより多かったが300キロはなかった気がする。

けれど、長い長い道だった。



やっと歩けるようになったばかりの俺は、恐ろしいほど歩幅が狭かった。

何とか前に進もうと1歩を踏み出そうとしても、足はほとんど上がらない。

上がらない足は、すぐに地面についてしまう。

そんな足は、ほんの些細な段差につまずいた。



何度転倒したか。

ズボンの膝は、すぐに擦り切れた。

どうしても足を引きずってしまうので、足先も靴底も見る見る減っていった。

見かねた宿の女将さんが古布を引っ張り出して、ズボンに継ぎをしてくれたっけ。

あの頃の俺は人間不信でありがとうも満足に言えなかった。

ほんのちょっと頭を下げるしかできなかった俺にそっと握り飯を持たせてくれたあの人は、今も元気だろうか。



果てしない道が夕日に染まる。

一度座ったらもう立ち上がれなくなり、本日はここまでとして、道端のキャベツを1個失敬する。

外側の数枚を捨て、やわらかそうな内側の1枚をむしり、食べてみる。

取り立てだし、サラダにもなるものだからとそのままかじったが、バリバリして硬い。

昼間、歩きながらかじるのは仕方ないにせよ、夜くらいは煮炊きをすべきだろう。

そこらの大き目の石を拾い、枯れ草や燃えそうなものを拾う。

木がないので、燃料になりそうなものは枯れ草や動物の糞らしきものくらい。

それでも小さな火が焚けるほどは見つかり、ほっとする。

マッチの火がうまく移ったときの小さな満足感。

あの頃の俺には、これほどの機転はなかった。



俺は本当に人間の道を歩くアリのようだった。

はるかかなたまで続く道。

予定した行程がはかどらず、野宿になったことが何度もあった。

そういう時は水筒に残った水をほんの少しずつ飲みながら、非常時のために入れておいたビスケットで飢えをしのいだ。

そう、あの時と同じ。

いや、あの時の方がもっとつらかった。



町に着いても汚れ果てた子供の俺は、なかなか宿に入れてもらえなかった。

本間先生に電話して身元を保証してもらい、やっと泊めてもらう。

そのとき話した断片を先生が記録してくださっていた。

それが本になったときにはびっくりしたが、嬉しかった。



日に照らされて目が覚める。

やはりこれは夢ではなく、現実なのだ。

町まで後何キロあるのだろう。

昨日、どれだけ進めただろうか。



たった1日で恐ろしいほどがさついた手。

こわばる顔。

本当にたどり着けるのだろうか。

ゴールなどあるのだろうか。



忘れるな。

俺はあの時、ゴールにたどり着いた。

もう無理だ。

もう歩けないと何度思ったことか。

親指がはみ出した靴を踏みしめながら、絶望的な道を、俺は歩きとおした。

今はまだ、あの時の痛みには及ばない。



俺は帰る。

あの時の本間先生はもういないけれど、俺には帰る場所がある。

帰り着けば、迎えてくれる人がいる。



歩こう。



俺はまた果てしない道を歩き始めた。





*****


あの「ディンゴ」のオーストラリアの長い長い道のりを、BJはこんなふうに思いながら歩いていたのではないかと思えますよねv
そして最後、ほんのりとピノコの存在を匂わせてくださって・・・v
は~vもう本当に素敵なお話をグリコさんどうもありがとうございますvv

このお話を書いてくださったグリコーゲンさんの「旅する男達」はこちら

PageTop
 

コメントコメント


管理者にだけ表示を許可する